どんびより

日常のあれこれや雑多な感想になる予定

盲目的な恋と友情 ネタバレ&感想

~~あらすじ~~

自分の美しさに無自覚な一瀬蘭花は自身が所属する大学のオーケストラの指揮者の茂実星近に恋をする。彼と出会って蘭花の人生は天国と地獄がいっぺんにきたかのようだった。そして、二人の恋は思わぬ形で終わりを告げる。

そんな彼女の傍にい続けた蘭花の親友、傘沼留利絵の思いとは。

 

 

 まず、言葉が綺麗。すっと言葉が頭に入ってくるし、その情景が瞼の裏に描き出される。

「あの人が死んでしまったら、とても生きていけないと思った、あの幸せの絶頂の一日から六年が経ち、あの人は死んでしまったのに、私は、まだ、生きている」

この初めの文章の、「私は、まだ、生きている」。

強調するかのようにこの文章は区切り区切りなんだよね、ここで主人公が後悔している

というか「あの人」に未練があることが伝わってくる。

 

「地獄を見た、と心底感じているのに、戻りたいかと問われたら、私は戻りたいと答えるのだろう。戻って、そしてまた、茂実と、同じようなことを同じようにしたい。

それが、どれだけ、愚かであっても。」

自分で自分が愚かであると分かっているのに、戻りたいかと問われたら戻りたいと答えると思っている。まさに恋は盲目だなあ。

というか、蘭花は茂実が菜々子さんと寝ていると知っていても、それが原因で彼が音楽界を干されて自分を繋ぎとめるために脅すようなことをしても、お金をせびられようと、暴力をふるわれようと、戻りたいって答えるんだよなぁ。

その結果、彼を自分の手で殺すことになっても。

 

「私の中で、嫉妬するというよりは、軽やかな、踊り出したくなるような後ろめたさが疼いた。」

「いつまでも、その頃の甘い思い出に浸っていたい、ここに縋りついていれば大丈夫、と人の心を蝕む甘美な思い出。

たとえもう、そこに甘い味など残っていなくても。」

ここの文章とか本当どうやって考えているだろうってぐらい心に刺さる。

 

仕事を干された後の荒んだ茂実に執着され、依存されることに対して優越感というか快感を得ているんだよね、蘭花は。それはつまり共依存なわけだけど。

蘭花にとって、自分から初めて好きになった人だからこそここまで執着するのかな。

最初の文で、恋をしていた。から、最後の方の文では、愛していた。って変わるんだよね。

どんなことをされようと、それでも好きなままでいる、嫌いになれないことは「愛」と呼べるのか。

いや、まあ。本人がそう思えるならそうなんだろうけど、でも、それを私は愛と呼びたくはないな。

 

ここまでが蘭花視点の「恋」の章の感想でした!

 

ここからは、留利絵視点の「友情」の章の感想をつらつらと。

留利絵の過去が薄暗い。重いというほどでもなく、ありきたりというわけでもない。

美しさを理由に選ばれなかった女の子の話。

彼女の根本にあるのが、誰かに選ばれたい、愛されたい。なんだと思う。

というか、お姉さん、父親から性的虐待を受けてたんだよね?

それを母親は見て見ぬふりをし続けた。

だから、彼女は両親が大嫌いだし憎んでさえいるんだろうなっていうのがほんの僅かしか出てこなかったのにすごい伝わってきた。

まともに親からも愛されなかった女の子。

彼女の両親がもっと彼女自身の言葉に耳を傾けて、愛していればこんな性格にはならなかった。

そんな彼女が、自分の言葉を真正面から受け取ってくれる蘭花のことを好きになるのは、なんというか当然かなーって。

 

特別な人間の、特別になりたかった。

特別な人間に選ばれた、一番の存在でありたかった。

 

自分の存在価値を蘭花に理由付けしてきたのはそういうことなんじゃないのかな。

自分が傷つけられてきたいろいろな事象に対して、無理して正当化させようというか、こんなことでは傷ついていないというふりをしなくちゃいけないのは苦しいよ。

 

「どうして、いつの日も、友情は恋愛より軽いものだというふうに扱われるのだろうか。」

「何人と付き合ったか、が話題になることはあっても、何人の友達がいるか、そのうちの何人から真に心を開かれ、わかり合えているかが語られることはない。

恋はいつ終わるとも知れない軽いものなのに、長く、ずっと続く友情の方は、話題になることが、ない。」

 

そう、恋ではなかったんだよ。

もう、友情とも呼べないけど。

なんだろうなーー、本当に難しい。

人間関係に名前を付けるのって本当に大変。

 

 

でも、全体的に好みの話でした。

言葉の数々が美しく、心に刺さる。

最後のちょっとしたミスリードと意外な犯人。

そして、ハッピーエンドで終わらない。

読了後、ずしんと心に重くのしかかる何とも言えないもやもや感。

もう一度、初めから読みたいと思わせる作品でした。